青戸けいのブログ

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TRIZの発明原理とは【問題の解決パターンを整理し、矛盾の解決に使う】

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 TRIZといえば、日本では発明原理の人気が高いと思います。

発明原理を使い始めて20年近くになりますが、ずっと発明原理のお世話になってきました。さまざまな面で、とても役立つ「先人の知恵」だと思います。今でも、まだ新しい発見があるほど奥深いものでもあります。

今回は、そのような興味深い発明原理について書いていきます。

発明原理とは

 発明原理とは、簡単にいうと「問題の解決パターンをまとめたもの」です。アルトシューラーが中心となり、膨大な特許調査などを行うことでつくられました。

多くの特許調査と研究の結果、問題の解決方法には、いくつかのパターンがあることが発見されました。その各パターンに名称をつけ、整理したものが発明原理です。全部で40のパターンがあり、40の発明原理と呼ばれています。

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40の発明原理

 サブ原理

「40の発明原理」のそれぞれの名称は、上記のようにとてもユニークなので、その名称を見るだけでアイデアのヒントになります。

しかし発明原理には、更に深く/広く考えることができるように別の工夫があります。発明原理の意味をより具体的に説明した短い文が、発明原理ごとに用意されています。それらの短い文をサブ原理と呼びます。

それぞれの発明原理ごとにサブ原理がいくつかあります。例えば、発明原理1の「分割」には次の3つのサブ原理があります。

  • サブ原理A:部分に分ける
  • サブ原理B:組立て分解しやすいように分ける
  • サブ原理C:さらに細かく分ける

これらのサブ原理は、アイデアを考えるときに、とても役に立ちます。次の具体的な例で考えてみましょう。

サブ原理Aの適用例

サブ原理Aは「部分に分ける」です。

以前の携帯電話ガラケー)では、画面サイズは拡大したいが、本体はコンパクトにしたいというニーズがありました。

そこで次の図1のように、画面部操作部という2つの部分に分けることで、折りたたみ可能になりました。その結果コンパクトになり、持ち運びが容易になりました。

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図1.折りたためる携帯電話

サブ原理Bの適用例

サブ原理Bは「組立て分解しやすいように分ける」です。前のサブ原理Aは「部分に分ける」でしたが、サブ原理Bは、どうせ分けるなら「組立てや分解がしやすい」ように分けようというものです。

椅子は休憩する時などは、とてもありがたい物です。でも使わない時は邪魔になります。使わない時はコンパクトにしたいですよね、どうすれば良いでしょうか?

まずサブ原理Aを使って、座面や背もたれが分割できるようにすればコンパクトにできます。しかし、使うたびに、毎回(ねじなどで固定して)組み立てるのは大変です。これでは、使い勝手は良くなりません。

そこで、サブ原理Bの「組立て/分解しやすいように分ける」が使えます。

次の図2ように、折りたたみイスは、背もたれ・座面・脚部に分かれています。このように分けることで、収納する時は、折りたたみが簡単になります。また使用する時には、組み立てが簡単にできます。

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図2.折りたたみ椅子

部分に分ける時は、このように組立てや分解が簡単になるように分けると、使い勝手が良くなります。

サブ原理Cの適用例

 サブ原理Cは「さらに細かく分ける」です。サブ原理Aで「部分に分けた」ものを、さらに細かく分けてみようというものです。

使い捨てのヒゲソリでは「剃り(そり)心地を良くしたい」というニーズに対して、従来の1枚刃2枚刃にしました。これは、サブ原理A(部分に分ける)の適用といえます。

刃の枚数が増えると、1枚の刃にかかる圧力が減ります。その結果、肌への負担が減り、剃り心地が良くなります。

その後、「さらに剃り心地を向上したい」というニーズが出てきました。どうすれば良いでしょうか?

そこで、サブ原理Cの「さらに細かく分ける」が使えます。

2枚刃をさらに細かく分けて3枚刃へ、そして3枚刃をさらに細かく分けて4枚刃にします。次の図3のように、ヒゲソリの刃を「2枚刃→3枚刃→4枚刃」というように発展させていきました。

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図3.ヒゲソリの刃

刃の枚数がさらに増えると、1枚の刃にかかる圧力がさらに減ります。その結果、肌への負担がさらに減り、剃り心地もさらに良くなります。

上記の例は、サブ原理Cの「さらに細かく分ける」をうまく使った例といえます。他にも(既に分けたものを)さらに細かく分けることで発展してきた例が、いろいろとあると思います。サブ原理Cの観点で探してみると面白いと思います。

 発明原理は矛盾を解決するためのもの

発明原理は本来、矛盾解決するために開発されたものです。アルトシューラ―を中心とした研究チームが、世界中の特許を調査し、矛盾を解決する法則を見つけ出していったものが発明原理であると言われています。

TRIZでは次の2種類の矛盾を扱います。

  • 技術的矛盾
  • 物理的矛盾

技術的矛盾

技術的矛盾とは、次のような矛盾のことです。

  • ある側面を改良しようとすると、別の側面が悪化する矛盾

例えば「強度を向上させると、重量が増加する」といった状況があります。この場合は、強度と重量が対立しています。このような対立が生じている状況を技術的矛盾と呼びます。

【具体的な例】

飛行機の性能を良くするために、「翼の強度を向上する」ことが必要になりました。そのためには「部材の厚みを増やす」という方法があります。しかしその方法を行うと「重量が増加」してしまいます。重量が増加すると、性能が落ちてしまいます。

このように「ある側面を改良しようとすると、別の側面が悪化する」といった状況が、技術的矛盾です。この例では、「強度」対「重量」の技術的矛盾が生じています。このような技術的矛盾は、システムの改善を妨げる要因になります。

物理的矛盾

物理的矛盾とは、次のような矛盾のことです。

  • 1つの側面に対して、の対立する要求が同時にある矛盾

1つのものに対して2つの要求があり、それが対立するときに矛盾が生まれます。その要求がであり、対立が極めて大きい状況を物理的矛盾といいます。

2つの要求が次のように正反対(真逆)である場合、物理的矛盾が生じます。
・大きくしたい/小さくしたい
・硬くしたい/柔らかくしたい
・重くしたい/軽くしたい

 【具体的な例】

会議やプレゼンなどで、「プロジェクター映像」と「手元の資料」を見る場合を考えましょう。

プロジェクター映像を見るためには、部屋を暗くする必要があります。また手元の資料を見るためには、部屋を明るくする必要があります。ここでは「部屋の明るさ」に対して、「暗く」と「明るく」という正反対(真逆)の要求があります。

このような状況が、物理的矛盾です。この例では、「暗く」対「明るく」の物理的矛盾が生じています。このような物理的矛盾も、システムの改善を妨げる要因になります。

矛盾の解決

TRIZでの矛盾には、 技術的矛盾と物理的矛盾がありました。この2つの矛盾の違いを簡単にいうと次のようになります。

  • 技術的矛盾とは:2つの異なる側面対立する矛盾(「強度」対「重量」)
  • 物理的矛盾とは:1つの側面への要求が対立する矛盾(「暗く」対「明るく」)

 技術的矛盾と比べて、物理的矛盾は次のようにいわれています。

  • より本質的な矛盾である
  • 解決が難しい
  • 解決したときの効果が大きい

技術的矛盾と物理的矛盾は、システムの改善を妨げる要因になります。そして、どちらの矛盾も発明原理を使って解決アイデアを考えることができます。

そのためには、技術的矛盾や物理的矛盾を「正しく定義する」必要があります。この点については、また別の記事で詳しく書きたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献

 この記事を作成するために、以下の書籍を参考にさせていただきました。

  • Darrell Mann 『TRIZ 実践と効用 (1) 体系的技術革新』 中川 徹 監訳、株式会社 創造開発イニシアチブ、2004年
  • Yuri Salamatov 『超発明術TRIZ シリーズ5 思想編「創造的問題解決の極意』 三菱総合研究所 知識創造研究チーム 訳、日経BP社、2000年
  • 日経メカニカル編集 『超発明術TRIZ シリーズ3 テクニック編「図解 40の発明原理」』 日経BP社、1999年